生クリームの種類と特徴、洋菓子作りにおける生クリームの知識を元パティシエが紹介します。

生クリームの種類

パティスリーと洋菓子製造工場の知識を持つ私が、生クリームの特徴と種類、パティスリーの生クリームと洋菓子チェーン店の生クリームの違いなど、洋菓子作りにおける生クリームの知識を紹介します。

生クリームとは

生クリームとは生乳を遠心分離機にかけ乳脂肪の濃度を18%以上にしたもので、添加物を加えていない乳製品の事です。
※生乳とは牛から搾ったままの手を加えられていない乳の事。

ミルクと牛

生クリームが泡立つ理由と分離

クレームシャンティー

生クリームは水分中に脂肪球という球体状の脂肪が存在し、それらがホイッパーの振動で衝突し合い、空気と水分を包むように結合し、泡立ってゆきます。

更に泡立て続け脂肪球の結合を強めると、間に入っていた空気や水分が押し出され、水分と乳脂肪の塊に分かれてしまいます。
それが分離です。

余談ですが

「買い物の際に自転車のカゴに生クリームを入れて帰ると容器の側面に乳脂肪のかたまりが付いていたとう経験はありませんか?」
それは自転車の振動が容器に伝わり脂肪球同士が結合を起こしてしまったからです。

だけど同じ生乳から出来ている牛乳はそんな事になりません。
牛乳はホモジナイズという脂肪球を細かく粉砕する工程を行っているので生クリームみたく泡立つことはありません。


生クリームの%は乳脂肪分の量

生クリームの容器に記載されているパーセントは含まれている乳脂肪分の量になります。

乳脂肪分の高さによって変わってくる特徴は次の通り。

脂肪分の高い生クリームの特徴

・口当たりが濃厚
・泡立てに時間がかからない
・分離しやすい
・固形力が強い
・価格が高い

高脂肪の生クリーム

ナッペ(コーティング)など手早く行わないとボソボソにりやすい。

脂肪分の低い生クリームの特徴

・口当たりが軽い
・泡立てに時間がかかる
・分離しにくい
・固形力が弱い
・価格が安い

低脂肪の生クリーム

ケーキのサンド部分に使用する場合、固形力が弱いので型崩れを起こしやすい。


生クリームに加える砂糖の分量

生クリームを泡立てる際に加える砂糖の量は、生クリームに対して6~10%が良いです。
なので生クリーム1パック(200㎖)に対して12g~20gが適量です。

また15%を超えると生クリームの泡立ちが悪くなってしまいます。


生クリームの泡立て方

氷水と生クリーム

脂肪球は温度変化に敏感で、温度が高いと柔らかくなり その状態で泡立てると泡立ちは早いですが、脂肪球の結合が雑になって口溶けが悪くなり、固形力も弱いクリームとなってしまいます。

生クリームの良い泡立て方は、『氷水を下に当てクリームの温度を10℃以下に保ちながらホイッパーで生クリームを振動させるように泡立てます。

ガシャガシャ泡立てるとボールとホイッパーの接触で灰色のツブツブが発生してしまいます。


生クリームの種類

生クリームには『動物性生クリーム』『植物性クリーム』『コンパウンドクリーム』の3種類があります。

正確には植物性クリームとコンパウンドクリームは生クリームでは無いので、ホイップクリームもしくはフレッシュクリームと表記されています。

動物性生クリーム

動物性生クリーム

動物性生クリームの原料は生乳のみので乳脂肪分は18%以上。
一般的には35%~47%のものが販売されています。

動物性生クリーム表記
動物性生クリームの特徴

・乳の風味がある。
・泡立てすぎるとボソボソになりやすい。
・泡立てると色が少し黄色味がかる。
・価格が高い。

ケーキのコーティングや絞りを手際よくこなせる方に向いています。

植物性クリーム

植物性クリーム

植物性クリームの原料はパーム油(アブラヤシ)やヤシ油(ココナッツ)の植物油脂を脱脂粉乳などと乳化剤で合わせたもので、動物性生クリームに比べると賞味期限が長い。

(※注) 植物性といっても脱脂粉乳等が入っているので乳アレルギーの方は御注意くださ。

植物性クリーム表記
植物性クリームの特徴

・味はほぼ無い。
・泡立てすぎてもボソボソになりにくい。
・泡立てても綺麗な白色。
・価格が安い。

ケーキのコーティングや絞りに慣れていない方に向いています。

コンパウンドクリーム

コンパウンドクリームは動物性油脂と植物性油脂を合わせて作ったクリームになります。

コンパウンドクリームの特徴

動物性生クリームと植物性クリームの特徴を併せてもっている。

コンパウンドクリームは動物性生クリームと植物性クリームの割合などによって、特徴は様々なものになる。


『パティスリー』と『洋菓子チェーン店』のクリームの違い。

パティスリー(街のお菓子屋さん)と洋菓子チェーン店で使っているクリームには大きな違いがあります。

パティスリーの生クリーム

パティシエ

パティスリーでは『タカナシ乳業』か『中沢乳業』から仕入れた生クリームを使用していることがほとんどです。
動物性生クリームを使用しているので、自然な乳の風味と口どけがあります。
ただし、日持ちしないのでケーキは当日期限となってしまいます。

お店によっては価格を抑え、口当たりを軽くし、作業性を良くする目的で、動物性生クリームに植物性クリームをブレンドし、簡易的なコンパウンドクリームを作って使用している所もあります。

洋菓子チェーン店のクリーム

洋菓子工場

洋菓子チェーン店では、製造工場で独自のコンパウンドクリームを製造してケーキを作っています。

自社の大きなタンクで牛乳をベースにし、動物性油脂・植物性油脂・脱脂粉乳・乳化剤・香料などを混ぜ合わせオリジナルのクリームを作っています。

コンパウンドクリームは日持ちし輸送にも強く、他にはないオリジナルの味を産み出す事が出来るので、メーカーの大規模生産には欠かせないクリームです。

ケーキが洋菓子チェーン店やコンビニに並び、私達の身近なものになったのはこのコンパウンドクリームのおかげなのです。

植物性クリームは体に悪い?トランス脂肪酸とは

『よく植物性のクリームは体に悪いと言われます。』
その理由はクリームの製造工程に発生してしまうある物にあります。

植物性クリームの原料となる植物性油脂は液状なのですが、それを固形化(半液体状)『硬化油』にする際に、熱を加えながら水素を結合させてゆきます。

植物性油脂

その際、一部に意図しない水素の結合状態が発生してしまい、それをトランス脂肪酸と呼びます。


海外の研究では、このトランス脂肪酸を取り過ぎると動脈硬化などの健康被害を起こすという結果が出ています。

2009年頃にこのトランス脂肪酸の健康への影響が注目され、日本でも大きな問題になりました。

ただし、トランス脂肪酸は自然界にも存在しているもので、生乳にも微量に含まれていて、生乳を原料とする動物性生クリームにも微量に含まれています。

トランス脂肪酸が危険視されるのは、身の周りの多くの食品に含まれ過剰摂取傾向になりやすいという事からなのです。

食べすぎている人

ですので『一概に植物性クリームが危険なのではなく、トランス脂肪酸を含む食品の摂り過ぎが体に悪いという事なのです。』

メーカーも日々の努力で以前より商品のトランス脂肪酸含有量を減らしています。
私が当時勤めていた某菓子メーカーでもコンパウンドクリームの製造方法を大きく見直しました。

ケーキ作りにお勧めな生クリームブレンドレシピ

ここまで解説してきた知識を元に、ショートケーキを作る際にお勧めなクリームのレシピを2つ紹介します。
【15cm(5号)~18cm(6号)サイズを1台作れる分量となっています。】

1. 初心者向けのクリームレシピ

タカナシフレッシュクリーム47%・・・200ml(1個)

雪印メグミルクホイップ・・・200ml(1個)

グラニュー糖・・・30g

このレシピの特徴は、自然な乳の風味を残しつつ、作業性も確保し、コーティングに手間取ってしまってもボソボソになりにくい。

2. 上級者向けの生クリームレシピ

タカナシフレッシュクリーム47%・・・200ml(1個)

タカナシフレッシュクリーム35%・・・200ml(1個)

グラニュー糖・・・30g

このレシピの特徴は、しっかりとした乳の風味に程良い固形性があり、型崩れしにくく、作業性も47%クリームより良い。

コローの一言

動物性生クリームにしても、植物性クリームにしても、どちらも食べすぎは体に良くないので、ケーキは御褒美の一時などに食べるのが良いかと思います。

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